相続財産の名義変更

相続財産の分割方法が決まったら、その内容を実現するための諸手続きを進めます。相続財産の中には、預貯金や株式のように、名義変更や解約などの手続きが必要なものもあります。準備ができたものや時間のかかりそうなものから、順に相続手続きを進めましょう。

届出・手続きのポイント

期限や行う時期 10か月以内
手続きする場所 金融機関や証券会社など
準備するもの 手続き先が用意・指定する書類、相続人の戸籍謄本、相続人の印鑑証明書など

優先順位をつけて進めることが大切

相続によって故人がもっていた財産を引き継ぐ際、必要に応じて名義変更や売却、解約などの手続きを行います。手続きが必要になる主な相続財産と手続き先は、次の通りです。

  • 預貯金や貸金庫・・・銀行などの金融機関
  • 株式や債券、投資信託・・・証券会社
  • 生命保険や損害保険・・・保険会社
  • 自動車・・・陸運局 など

このように、名義変更や解約などを必要とする手続きは多く存在します。とはいえ基本的に名義変更や解約には期限はないため、つい後回しにしてしまいがちです。

ところが、いざ手続きを開始したら、想定外に時間がかかる場合があります。手をつけられるものから、順番に手続きを進めましょう。

主な相続財産の名義変更や解約手続きの方法

主な相続財産に関して、名義変更や解約手続きをどのように進めればいいのかを解説します。

1. 預貯金や貸金庫

相続手続きをする際、なるべく早く取りかかりたいのが預貯金と貸金庫です。なぜなら、死亡の事実を金融機関が知ると、基本的に口座が凍結されるからです。

故人が公共料金の引き落とし口座に指定していた場合、口座が凍結されると引き落としができなくなります。凍結を解除するには手続きが必要なので、早めに相続手続きを行いましょう。

預金口座に関しては、一般的に次の3つの手続きが必要です。

1) 手続きの申し出
2) 必要書類の準備・提出
3) 払戻しなどの手続き

銀行によって多少の違いはありますが、基本的にはこの3つの流れで手続きが進みます。それぞれ詳しく見てみましょう。

1) 手続きの申し出

口座の名義人が亡くなると、名義変更や解約による払い戻しなどの手続きが必要です。まずは銀行に連絡して死亡の事実を伝えましょう。

金融機関に連絡すると、どのような手続きが必要になるのか案内してもらえます。ただしこれ以降、相続手続きが完了するまでの間、現金の入出金などは原則として制限されますので注意してください。

貸金庫を借りている場合は、併せて貸金庫の解約も行います。貸金庫の解約が完了しなければ口座の解約はできません。必ず貸金庫の解約も依頼しましょう。

2) 必要書類の準備・提出

相続手続きに必要な書類は、どのような形で相続するかによって異なります。

  • 遺言書がある場合
  • 遺言書がなく遺産分割協議書がある場合
  • 遺言書がなく遺産分割協議書もない場合
  • 家庭裁判所による調停調書や審判所がある場合

どのケースに相当するかによって必要な書類は変わりますが、基本的には相続人の戸籍謄本や印鑑証明書などです。金融機関からの案内に沿って書類を準備しましょう。

これらの書類に加えて、金融機関が準備している手続き書類にも、必要事項の記入や捺印が必要です。名義変更をする場合は誰の名義にするのか、解約するなら誰の通帳に解約金を振り込むのかを相続人で相談して、この書類に記入しておきます。

3) 名義変更や払戻しなどの手続き

すべての書類が揃って金融機関に提出すると、依頼した通り名義変更や解約などが行われます。

2. 株式や債券、投資信託など

株式や債券、投資信託などの相続手続きも、基本的には預貯金と同じ流れで行います。

1) 手続きの申し出
2) 必要書類の準備・提出
3) 払戻しや移管の手続き

まずは取引のあった証券会社に連絡して、どのような書類が必要になるのかを確認しましょう。所定の相続手続き書類も証券会社から送られてきます。案内を見て必要書類を準備しましょう。

投資信託や債券などは、基本的に所定の手続きをすれば、そのまま売却して払い戻しを受けることができます。

やや事情が異なるのが、株式の相続です。株式を相続する際は原則として、すぐに解約して換金することができません。「移管」という手続きを経た後で、必要に応じて売却したり、そのまま保有したりという段階へと進みます。

移管とは「管理を他に移すこと」という意味です。株式の相続においては、故人の口座からいったん相続人の口座に移し替えることが必要なのです。

基本的に、移し替える口座は同じ証券会社内に必要です。もし株式を受け継ぐ相続人が同じ証券会社に口座を持っていない場合は、新たに口座を開設しなくてはいけません。詳しくは証券会社に問い合わせましょう。

3. 生命保険や損害保険、火災保険など

保険会社と契約している生命保険や損害保険、火災保険なども、必要に応じて名義変更や解約などを行いましょう。相続手続きの流れは、預金口座や株式などと流れはほぼ同様です。

まずは取引のあった保険会社に死亡の事実を伝えます。必要な書類は保険会社ごとに異なります。詳細は保険会社から案内してもらい、手続きを進めましょう。

名義変更をした上で、契約が満期まで存続した場合は、満期時に「満期返戻金(まんきへんれいきん)」が保険会社から支払われます。相続時に解約した場合は、「解約返戻金(かいやくへんれいきん)」が支払われます。ただし掛け捨てタイプの保険の場合は、解約返戻金はありません。

生命保険に関しては、死亡したときに保険金の受取が発生するものがあります。これを死亡保険といいます。保険金の受取は3年間可能です。手続きを後回しにすることもできますが、このタイミングで手続きしておくとスムーズです。

また、死亡保険金はみなし財産と呼ばれており、法律によって扱いが次の通り異なります。

  • 民法・・・死亡保険金は相続財産には当たらず、相続人で分割する必要はない。
  • 相続税法・・・相続人が経済的利益を得ることから、死亡保険金は相続税の課税対象となる。

死亡保険金は民法上では相続財産に相当しないため、受取人に指定された人が受け取るだけで構いません。相続人同士で分割する必要はないということです。

ただし相続税法においては相続税の課税対象になるため、相続税の申告時には項目に含める必要があります。とはいえ、相続税法では非課税枠が設けられているため、受け取った死亡保険金のすべてが課税対象になるわけではありません。

先延ばしにすると忘れてしまう可能性もあるので、できれば早いうちに、死亡保険金の受取をしておきましょう。

4. 自動車

故人が持っていた自動車についても、相続の手続きが必要です。誰も相続せず廃車や売却を考えている場合でも、いったん相続人に名義変更することが必要となります。まずは所定の手続きを行って名義変更を行いましょう。

ただし名義変更の手続きは、元の所有者が故人本人であるのか、販売店や信販会社などであるのかによって内容が異なります。まずは自動車検査証(車検証)を探し、所有者が誰であるのかを確認してください。車検証は多くの場合、車内に積んだままになっているはずです。

マツダオフィシャルウェブサイトより引用

多くの場合は「所有者=使用者」です。ただし中には、ローンで購入したりリースで契約したりしていて、所有者と所有者が異なるケースもあります。所有者を確認して、次の通り必要な手続きを行いましょう。

1) 故人本人が所有者であった場合

故人本人が自動車の所有者であった場合、陸運局にて名義変更手続きを行います。相続人の住所地を管轄する陸運局に行って、手続きを行いましょう。名義変更の手続きは次の流れで行います。

1) 申請書などを作成する
2) 登録手数料を支払う
3) 窓口に必要書類を提出する
4) 車検証の交付を受ける
5) 自動車税などの税金を申告する

申請するにあたっては、陸運局に置かれている次の3つの書類に、必要事項を記入します。

  • 手数料納付書
  • 自動車税・自動車取得税申告書
  • 申請書

陸運局に用意されている書類の他、車検証や自動車保管場所証明書(車庫証明書)、戸籍謄本などの書類も必要です。事前に確認して準備しておきましょう。

なお、軽自動車の場合は手続きが簡略化されており、新しい所有者の住所地を管轄する軽自動車検査協会事務所で手続きを行います。

軽自動車検査協会は全国にあり、ホームページで所在地や問い合わせ先の一覧が公開されています。名義変更に必要な書類についての説明もありますので、確認して手続きを行いましょう。

(参考)軽自動車検査協会ホームページ

2) 販売店や信販会社などが所有者であった場合

故人が乗っていた自動車であっても、場合によっては所有者が販売店や信販会社などの場合もあります。故人の死亡の事実を伝えて、どのような手続きが必要なのかを確認してください。

なお、ローンの返済途中に故人が死亡した場合は、相続人が残りのローンを負債として引き継ぐことになります。詳しくは所有者と相談して、その後の返済方法や自動車をどうするかなどを決めましょう。

その他の名義変更や解約手続きについて

これまでに挙げたもの以外でも、名義変更や解約手続きなどが必要な相続財産があります。手続きが必要な相続財産と手続き先は、次の通りです。

  • ゴルフ会員権・・・管理会社
  • リゾート会員権・・・管理会社
  • 百貨店会員権・・・百貨店
  • 電話加入権・・・NTT など

詳しい手続きについては、それぞれの手続き先に尋ねましょう。なお、これらは相続財産となるため、相続税の申告をする際は項目に含めておく必要があります。

この他、次の知的財産権も相続財産となります。

  • 著作権
  • 工業所有権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)

それぞれの相続手続きについて、詳しく見てみましょう。

1. 著作権

著作権の相続にあたっては、相続の手続きをする必要はありません。相続人同士で話し合って、誰が相続するのかを決めましょう。

とはいえ、口約束だけでは後々トラブルを招く可能性もあります。なるべく話し合いの内容をまとめた遺産分割協議書を作っておくことをおすすめします。

2. 工業所有権

工業所有権とは、「特許権・実用新案権・意匠権・商標権」の総称です。工業所有権を相続した場合には、特許庁に対して相続の事実をすみやかに届け出る必要があります。

届出に使う書類は、特許庁のホームページからダウンロードできます。「納付書・移転申請書等の様式相続」というページの中に、相続という項目があります。その中に、「特許・実用・意匠・商標」の4つの書式が用意されていますので、必要なものをダウンロードして使いましょう。

(参考)特許庁ホームページ:納付書・移転申請書等の様式(紙手続の様式)

特許庁ホームページより引用

相続財産は多岐にわたるため、名義変更などの手続きには時間と労力が必要です。また、行き当たりばったりで手続きを進めると、手つかずのものが後から出てくる可能性もあります。

名義変更や解約などの手続きをスムーズに進めるためにも、手続きが必要な財産を書き出しておきましょう。その上で優先順位をつけ、大まかなスケジュールを作っておくことをおすすめします。

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